企業が取り入れるべき「ブランディング」とは?プロセスも合わせて解説

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マーケティングに携わる方なら、「ブランディング」という言葉を一度や二度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。けれど、いざ「ブランディングの意味を説明せよ」と言われると、すぐには答えられない人も少なくないはずです。

この記事では、知っているようで意外に知らない「ブランディング」の意味を解説し、あわせてブランディングの重要性やメリットなどについてお話します。


    

【もくじ】

● ブランドとブランディングの関係

ブランディングとは?

今なぜブランディングが必要な時代なのか?

ブランディングが強い企業の特徴とは?

ブランディングの具体的なプロセスの6ステップ

ブランディングの事例

   

ブランドとブランディングの関係

ブランディングとは企業のブランド価値を向上させる経営戦略ですが、そもそも「ブランド」とは何を意味するのでしょうか?「ブランド」という言葉を聞いたとき、シャネルやエルメスなどの、高価な商品を取り扱った高級ブランドを思い浮かべる方も多いと思います。

ブランドという言葉の由来

ブランド(Brand)の語源は、古英語Brand、古高ドイツ語brant、古ノルド語brandrなどの「焼く」「印」と言う言葉からきており、ワインの樽や家畜などに、品質やオーナーシップを識別するために熱した鉄で焼印をつけることを意味していました。

ブランドとは?

ブランドとは、商品やサービスを競合他社から明確に区別し識別させるための、名称、言葉、デザイン、シンボル、その他の特徴であり、特徴としてすぐに思いつくのは、ブランドの名称やロゴだと思いますが、色、写真、キャッチフレーズなども特徴の1つになります。

消費者がブランドに触れる機会は、商品やサービスの他、SNS、カスタマーサービスの応対など多岐にわたりますが、全てのタッチポイントで、消費者は一貫してそのブランドの個性、「らしさ」を感じることができます。

このようにブランドの本質とは、品質でも希少性でもなく、強みや個性である「らしさ」なのです。

しかし、ブランドの本質である、強みや「らしさ」といった抽象的なものは、伝えるのが非常に難しいものです。そこで、この強みや「らしさ」を、消費者に伝わるような特徴として、多角的にブランドを表現し、消費者が「このブランドはこんなブランドなんだ!」とその世界観を直感的に感じることができるようにするのがブランディングという行為に当たります。

 

ブランディングとは?

ブランディングとは、時代や環境、顧客ニーズを考えながら、企業/商品/サービスなどのもつ「らしさ=個性」を引き出し、価値をつくり上げ、お客さまに与える総合体験の全てにおいて正しく演出し、伝わりやすく魅力的にデザインすることです。

ブランディングの最終目的は、「企業価値」を向上させ、お客様のロイヤリティを獲得すること。いわば、お客さまに信頼してもらい、ファンになってもらうことです。

これまでは、実質的価値(商品、サービス、品質、性能など)を向上させ、それを企業の視点から分かりやすいかたちにして(コーポレート・アイデンティティ)発信していけば顧客ロイヤリティは獲得できていました。

しかし、現在のようなモノが溢れている時代では、実質的価値を向上させることは「できていて当たり前のこと」とみなされ、そこで差別化を図ることが難しくなってきました。そこで起こるのが価格で差別化を図る価格競争。それでは品質を上げ、価格を下げるという不毛な戦いになってしまいます。

そうではなく、その企業の個性や特性を柔軟な視点で引き出し、時代やお客さまのニーズをふまえた上での新しい価値=情緒的価値(デザイン、ビジョン:環境対策、地域活性化や社会貢献など、商品・サービスを新しい切り口でみること)で他社と差別化し、実質的価値を含むすべてをお客様に伝わるかたちにすることがブランディングの醍醐味です。

こうして他の企業にはない、自分だけの「個性や強み」を伸ばす価値の付け方をすることは、競争相手のいない/少ないマーケットで自分らしくビジネスができることにつながっていきます。

今なぜブランディングが必要な時代なのか?

私たちが毎日、無意識的に選択しているブランド(製品やサービス)は、ある一定のクオリティーに達していなければ顧客から支持を得ることができませんし、見つけてもらうこともできません。

良い製品、良いサービスを提供できるよう企業が努力することは当然ですが、それだけでは顧客が満足することは無いに等しいでしょう。

なぜなら、自社だけが精進しているわけではないからです。同じマーケットで競合しているライバル企業も、同じようにレベルアップを目指してブランディングをしています。IT(情報技術)が発展したことで、生活は便利になり多くのメリットが生まれました。

企業もアイデアを商品化、サービス化するまでのスピードが、とても速くなりました。しかし、これはオリジナルなアイデアで先行しても、すぐにライバル社に追いつかれることも意味しています。

同時に市場調査の技術も進歩しているため、「私だけの」製品やサービスが持ちにくくなった背景には、同じような価格で同じようなクオリティーの商品が並んでいるため、商品やサービスそれ自体では差別化が難しくなってきたため、ブランディングしにくい時代になったといえます。   

ブランドとして認識する顧客心理

顧客は何を基準に製品やサービスを選んでいるのでしょうか?顧客は「なんとなく」「適当に」お店や商品を選んでいるわけではないのです。衝動買いもありますが、それらには確固たる基準が存在しています。

何が最も自分を喜ばせてくれるのかというところにフォーカスしてお店や、商品を選んでいます。満足感とは、お店や商品にまつわるすべての要素や体験が対象となり、デザインや肌触り、使い心地や味といった商品そのものに関する要素だけでなく、お店の雰囲気や商品につけられたロゴマーク、パッケージ、スタッフの広くて深い商品知識、接客態度、製品にまつわるストーリー、それを推している有名人、信頼感や安心感など、これらの直接目に目えないものまでをひっくるめた満足感を求めているのです。

この、顧客が得られる満足感こそがブランドの力です。商品やサービスにブランドという付加価値を提供する、つまりブランディングに取り組む企業だけがライバルと差別化でき、顧客から選ばれる対象になっていきます。

企業の経営戦略とブランド戦略は、一体です。今後、「なんとなく」これまでと同じ商品やサービスを提供している企業やサービスは、おそらく衰退していくでしょう。自分たちはどの市場でどう戦って生き残っていくのか、顧客にどんな価値を認めてもらうように働きかけるべきなのかを突き詰めて考えることが、求められているからです。

ブランディングが強い企業の特徴とは?

せっかく良いものをつくり素晴らしい志を持ってビジネスをしていても、伝わらなければ意味がありません。ブランディングが強い企業は、会社や製品を伝えるために、以下の項目に重点を置いて発信をし続けているのが特徴です。

●COHERENT| 一貫性がある
●EMOTIONAL| 感情を引き出す
●SOCIAL| 社会貢献の要素がある
●ENVIRONMENTAL| 環境に優しい
●GOVERNANCE| 企業倫理/ガバナンスがある

いまの時代のブランドの流れとして非常に重要なのが、繋がりや共感です。ストーリーテリング(Storytelling)、ナラティブ(Narrative)、戦略的コミュニケーション(Strategic Communication)などがキーワードとなっており、消費者の感情を引き出し、ブランドの思いに共感してもらい、消費者にブランドとの繋がりを感じてもらうことに力を入れているのが特徴です。

「感情」という人の心に関することは非常に繊細であるため、戦略として小手先だけで取り繕うと、中身のともなわない薄っぺらなブランドが出来上がってしまいます。

ソーシャルメディアの発達で、この感情的な部分を発信するタッチポイントが多くなったため、消費者もこれをすぐに感じとり、矛盾があると不信感を抱きます。真摯に、偽らず、自分や自社のパッションや思いは何かをよく見定め、一本筋のとおった誠実なブランドづくりを心がけることが大切になっています。

 

ブランディングの具体的なプロセスの6ステップ

 STEP.01|ヒアリング/リサーチ・分析

ここでは、はじめにブランドの基礎である本質を引き出す作業を行います。実際に、どのようにして多くの情報の中からブランドの本質を見極めていくのでしょうか?それは、企業や商品/サービスがすでに持っている魅力を引き出し、整理し、それを時代や消費者のニーズを考えながら効果的にアレンジしていくことで可能になるからです。

そのためには、経営者(ブランドオーナー)や担当者が自分の意思と会社の立ち位置をしっかりと正確に把握することがブランディングを進めていく中で1番と言って過言ではないほど重要なことなのです。

自社の歴史や企業文化、ビジョン、ミッションなど、どのような思いで会社を営んでおり、何を目指しているのか?世界にどのようなインパクトを与えたいのか、他社にはない強みは何か、課題と問題点は何か、このブランドではどういう商品やサービスを取り扱うのか、その商品の強み、ブランドのゴールは何か、などです。

競争戦略型だった頃の相対的なものとは違い、そのブランドが本来持っている強みを引き出すことが重要であり、他社が絶対に真似できないような能力であるコアコンピタンス(Core Competency)や、コアストーリー(Core Story)とも重なる部分もあります。誰が見てもわかるような、競合他社を圧倒的に上まわる能力や、絶対に真似できない技術や製品があれば素晴らしいことです。

しかし、一見そうとは見えなくても、大切にしているところ、情熱を持って取り組んでいること、自信のあるところ、など会社の個性を柔軟な視点で丁寧に引き出していくと、唯一無二の価値を必ず見つけることができます。

社内の人間には当たり前になっているものが、外から見ると素晴らしい強みであることが多々あるのです。ですから、固定観念や自分の価値観にとらわれず、また先入観や情報でバイアスをかけたりせず、柔軟にクリエイティブに本質を見極めていくことが大切です。

 STEP.02|ブランドDNAを引き出す

ブランドの本質が見えてきたら、いよいよブランド・システムの構築に入ります。まずは、ブランドに関わる人々の間でブランドの本質を共有するために、ブランドのDNAをつくり上げていきます。これはブランドの本質を概念化したものです。ここが不確かだと、このあとのブランディングが砂上に城を立てるような危ういものになってしまいます。

ここで頭に入れておきたいのは、このブランドの本質を概念化したものは、いわばブランドにとってのDNA。消費者だけでなく、このブランドに関わる全ての人々が、混乱することなく確実に理解し、誰もが迷わず同じ方向を目指せるように、正確に明確にシンプルに定義する必要があります。

どんな価値観を持っている人でも理解できるように、わかりやすく論理的なものがベストです。時代やプロジェクトに合わせて常に調整が必要ですが、現在私たちがブランドの本質を整理し、わかりやすく概念化するための項目として入れているのは、次のものです。


●2-1. ターゲット/ペルソナ像
●2-2. プロダクト・ベネフィット
●2-3. ブランド属性とブランド価値
●2-4. ブランド・パーソナリティ
●2-5. ブランド・ビジョン
●2-6. ブランド・プロポジション
●2-7. ブランド・プロミス
●2-8. ブランドストーリー
●2-9.タグライン
※著書:「ニューヨークのアートディレクターがいま日本のビジネスリーダーに伝えたいこと」から一部抜粋

2-1. ターゲット/ペルソナ像
(この製品/サービスはどういう人が利用するのか?)

はじめに、ターゲット・オーディエンスを定めます。目指す最終ゴールを達成するために、どういった人々にこの商品やサービスを買ってもらう/利用してもらいたいかを定めていきます。この製品やサービスはどのような価値を発揮し、生活を豊かにするのかを定めていきます。

理解していただきたいのは、マスマーケットを狙ったターゲット設定は成功に導くのが難しいということ。ターゲット層を広く設定したからといって、たくさんにリーチできるわけではありません。むしろ、多くを狙うがために戦略が曖昧になり、狙ったターゲットに効果的に伝えることができなくなってしまいます。

ターゲットを男女のすべての年齢層にするのか、20代の女性にするのかでアウトプットは変わってきます。ターゲット/ペルソナ像を具体的に絞ることがブランディングを成功させる秘訣です。

それにはまず、この商品やサービスは、どういった人々に向けてつくられているか、どういう市場や層の人々に買ってほしいかを定義します。通常、デモグラフィクス(demographics)とサイコグラフィクス(psychographics)の2つで表していきます。

デモグラフィクスは統計上の集団の特徴で、一般的には年齢、性別、年収、職業、社会階層、家族構成、教育レベル、人種、宗教、居住国/居住地域などの属性を表します。

一方、サイコグラフィクスは心理的な属性で、休日は何をしているか、どんなライフスタイルなのか、趣味や嗜好、行動の傾向などを分析したものを示します。具体的にターゲット層を代表するような人を選んで、ペルソナづくりをするのも認識を共有するのに有効です。

時代とともにこの特徴も劇的に変化しているので、クリエイティブで柔軟な切り口でターゲットを定めていく必要がありま日本でよく見かけるのは、インバウンドを狙った商品やサービスを取り扱ったブランドで、様々な国、民族、言語、宗教、収入、学歴などを持っ海外のターゲットを「外国人」とひとくくりにしてしまい、効果的なブランド戦略が構築できていない例です。

自分がターゲット・オーディエンスでないことを認識し、自分の価値観だけで考えず、固定観念にとらわれず、きちんとターゲットを理解することが重要です。

2-2. プロダクト・ベネフィット
(消費者の利点やメリットを考える)

「なぜ、消費者はこのブランドの製品/サービスを選ぶのか?」ベネフィットとは、利点のこと。競合となる類似または代替となる製品/サービスがたくさん売られているなかで、設定したターゲットオーディエンスがこの商品を選ぶポイントは何かを示します。

この製品はどういったメリットを消費者に与えるのでしょうか? 他の商品ではなく、この製品をターゲットに選ばせる価値とは何でしょうか?ターゲットオーディエンスを理解することはもちろんのこと、時代や環境、トレンドなどを読み取り、洞察することが重要です。同時に、この製品やサービスの本質とも合致していなくてはなりません。

ここで気をつけなくてはならないのは、自分がターゲット・オーディエンスでない場合、自分の主観で考えないことです。日本女性に一番好まれる下着の色はパステルピンクですが、アメリカとイギリスの女性が一番好む下着の色は黒であるように、あくまで自分がターゲットではないことを認識し、ヒアリングなどをしながら慎重に考えていく必要があります。

2-3. ブランド属性とブランド価値
(消費者や社会にどんな価値を提供できるのか?)

ブランド属性は、「機能的属性(Rational attributes)」と「感情的属性(Emotional attributes)」の2つに分けて考えます。機能的属性は、ブランドが持っている実質的な強み。そして感情的属性は、このブランドに触れたときに消費者に感じて欲しい感情です。

この2つの属性を土台として、ブランド価値(Brand Values) を見出します。ブランド価値とは、ブランドが消費者や社会にとってどのような価値を提供できるのかを明確にしたものです。企業が提供したい価値ではなく、時代や消費者や社会のニーズを考慮する必要があります。

ブランド価値の設定はブランディングの要であり、ブランド価値は北極星の中核となるもの。商品やサービスの機能的属性と感情的属性、プロダクト・ベネフィットを踏まえ、よりこのブランドらしさを感じさせ、ターゲットのニーズにもあった、唯一無二の存在になれるような価値を引き出すことが重要です。

2-4. ブランド・パーソナリティ
(このブランドの人格はどんなものか?)

このブランドが、消費者にとってどんな存在であるべきかを考えます。このブランドを人に例えたとき、どんな人格を持っているかということです。人は、自分に似た考えを持つ人に親近感を感じ、自分の理想的な存在の人に憧れを抱きます。通常、形容詞で表すことが多く、「優しい」「明るい」「楽観的」「慎重である」などといった属性を記します。誰もがこのブランドの印象を想像しやすい言葉で表現し、ネガティブな表現は避けます。

先述の、このブランドに触れたときに消費者に感じてほしい感情を表現した、感情的属性と矛盾がないようにします。わかりやすく共有する他の方法としては、そのブランドを象徴するような著名人や歴史上の偉人、映画やアニメのキャラクターなどを選び、その性格についてわかりやすく文字に起こすというのも有効です。

また世界観にあった歌手、曲、ビジュアルのミュージックビデオなどをチーム全体と共有するのも、ブランド・パーソナリティを理解しやすくする方法ですブランドの性格がはっきりすることで、ブランドの思考、行動、振る舞い、持ち味なども自然と定まり、ブランドが外に発信するすべての要素のトーンが揃い始めてきます。

2-5. ブランド・ビジョン
(このブランドは何を目指しているのか?)

このブランドを通して、何を目指しているのか、将来どうなりたいのか、社会にどういうインパクトを与えたいのかなど、実現させたいブランド側からの視点で叶えたいビジョンを明示していきます。

これははじめに行った、本質を引き出すプロセスで見えてきていると思うので、会社の理念や先述のブランド属性やブランド価値、ブランド・パーソナリティなどと矛盾がでないように、全てが同じ方向に向かったメッセージであるかを確認しながら進めていきます。

このビジョンには、社会貢献の要素がある、環境に優しい、企業倫理がある、このブランドが社会や人々の生活を良くする、といった経済活動のためだけではない利他的な姿勢が求められます。

いまの消費者、特に若い世代は、ブランドのビジョンに共感できなければ、そのブランドの商品やサービスを選ばない時代になっています。そしてあらゆるタッチポイントにおいて、このビジョンに沿ってこのブランドが進んでいるかをチェックしており、このビジョンに合わないアクションがみられると、反感をもたれてしまう可能性もありますので注意が必要です。

これはブランドにとって多大なダメージ。ブランディングのゴールはこのブランドのファンをつくること。消費者にへつらう必要は全くありませんが、偽りない誠実なビジョンを掲げ、その実現に向かって真摯に努力していく姿勢が大切です。

クライアントに伴走していく私たちにとっても、クライアントのブラクライアントに伴走していく私たちにとっても、クライアントのブランド・ビジョンは非常に大切なもの。商品やサービスの弱み、課題などは一緒に問題解決していきますが、クライアントのもつビジョンは変えられません。

ですので、私たちが全く共感のできないビジョンをもったクライアントのブランディングはお断りすることにしています。クリエイティブはブランドを導いていく重要な役割を担っています。ブランド構築チーム全体がビジョンに共感できていない状態での、気持ちを偽ったブランド構築はするべきではないということです。

2-6. ブランド・プロポジション
(このブランドはどんなブランドか?)

ブランドDNAのなかで最も重要であり、ブランドの中核となるのがブランド・プロポジションです。いままで構築してきた、プロダクト・ベネフィット、ブランド属性とブランド価値ブランド・パーソナリティ、ブランド・ビジョンの全てのエッセンスをできる限り短い文章で明確にわかりやすく書き示していきます。

その際に注意が必要なのが、ブランド・プロポジションは、消費者の購買を目的とした広告のキャッチフレーズとは違うということ。

ブランド・システムは北極星であるとお話しましたが、ブランド・プロポジションは、まさに北極星の中心。ここに向かってブランドに関わるすべてのものがつくられていきます。携わる人々の間で齟齬が生じないよう、機能的に書く必要があります。チーム全体でこのブランド・プロポジションを暗記して足並みを揃えていきます。

2-7. ブランドプロミス
(ブランドが消費者や社会にむかって誓う約束)

ブランディングを説明するときによく言われるのが“Brand is Promise”すなわち、ブランドとは約束である、ということです。

「あなたは信頼できる人ですか?」と質問されたとき、自分から「私は信頼できる人間です」と言ったところで、それを聞いただけでは周りの人々は信じません。

あなたが信頼できる人であるかどうかを決めるのは、あなたを客観的にみることができる友達や同僚などのあなたの周りの人々です。「あの人は信頼できる人だよ」と周りから言われてはじめて、あなたは信頼できる人であると評価されるようになります。

それではなぜ、あなたの周りの人たちはあなたを信頼できる人だと言ったのでしょうか?それは、あなたがいままでずっと、彼らとの約束を守り続けたからです。あなたがやると言ったことを、何度もこつこつと誠実に行動として実現してきた結果なのです。約束したことを真摯に守ってきた結果、あなたは「この人は信頼できる」という評判を得たのです。

これがブランドの評判を決める基本的な考え方です。ブランド・プロミスは、企業やブランドがどんな価値や体験を消費者や社会に提供できるか、ということを宣言したもの。

これは、企業から消費者や社会への約束で、この約束を常に守り続け、発言と行動に矛盾なく宣言を実行することで、消費者や社会の信頼を獲得していきます。

ブランドの一番大切なこと。それはこの約束を守り続けることだと言えます。

ブランドストーリー
(心に響くブランドのストーリーとは何か?)

ブランド・ストーリーとは、人々にこのブランドをエモーショナルに理解・共感してもらうための心に響かせるストーリーです。

内容は、この会社やオーナーのバックグラウンドや歴史、どういった思いでブランドを立ち上げたか、目指していきたい未来は何かなどを偽ることなく情緒的に伝えていくことが大切です。

それによって、ブランドに関わる人々や消費者が、ブランドに共感し、もっと深いところでブランドとつながります。

単なるブランドの歴史やブランドについての説明と思われがちですが、ブランドストーリーは、ブランドそのもののアイデンティティをかたちづくる、ブランドにとって最も重要な要素のひとつです。ブランド(企業)や商品について、物語を語るように人々に伝えることで、興味を持ってもらい、支持してもらい、そこから共感が生まれ、ファンになってもらえる可能性がグンと上がります。

事実だけを淡々と述べるのではなく、お客さまが心で感じ、インスピレーションになるようなものが、良いブランド・ストーリーと言えます。そのストーリーを通してお客さまがそのブランドや商品を「経験」するように語りかけるものです。

心に訴えかけるためには、人と人との繋がりが必要です。つまり従来の広告文句のような一方的な内容ではなく、人の目線で伝え、そして伝えられた側が感じたり考えたりする余裕があることが大切です。そうすることで、お客様と見せかけではない本質的な部分での繋がりが生まれます。

インターネットやSNSが普及した現在では、ブランドを成長させる上で、コンテンツを作り発信していくことが重要だといえます。SNSといっても複数のチャンネルがありますが、ブランドらしさをブレることなく伝えることは容易ではありません。

しかし、このブランドストーリーがしっかりしていると、一貫性のあるコンテンツがつくりやすくなります。また、各コンテンツがひとつの大きなブランドストーリーとして形成され、お客様にもブランドのメッセージが強く効果的に伝わりやすくなります。

良い物語は語り継がれ、ストーリーに共感、実際に商品やサービスを使ってファンになり、そしてその人がそのストーリーを友人や家族に伝える。これが理想的なブランドストーリーと言えるのです。

タグライン
(このブランドの世界観を一言で表現する)

タグラインとは、ブランドの感情的価値、機能的価値といったブランドのエッセンスを短い言葉で表したものです。スローガン、モットーなどとも呼ばれます。ナイキの“Just Do It.“やAppleの“Think Different”はタグラインです。

タグラインとよく混同されるのが、広告で使われるキャッチコピー。特に、ブランドのローンチ後は認知度が低いため、広告にタグラインをキャッチコピーとして使用することがあり、混同されることが多いのかもしれません。

しかし、このふたつは全く違う用途のものであり、キャッチコピーは消費者を魅せるためのもの、タグラインはブランドを定義するものです。

タグラインは、通常ブランド名称とともに使用され、ブランドが消費者や社会にオファーする世界観やプロミスやビジョン、差別化ポイントを、素早く印象深く伝えるものです。

良いタグラインは、短く、覚えやすく、独自性があり、ポジティブで、ブランドの差別化ポイントを表し、ブランドの世界観に合っている必要があります。

タグラインは、ブランド名称のサポート役のような存在だと考えていただくと良いと思います。

 STEP.03|ビジュアル・アイデンティティ

せっかく素晴らしいブランド戦略が明確に定義できても、それが体現できなければ、ブランドとして全く機能しません。

ブランドDNAができたら、それを消費者や社会に魅力的に伝わるよう、ビジュアル・アイデンティティ (Visual Identity)を構築していきます。ビジュアルアイデンティティは、アートディレクターやグラフィック・デザイナーによってつくり上げられますが、ブランディングの途中から採用するのではなく、ブランド・システム構築の段階から、経営戦略のチームとして参加しているほうが、最終アウトプットを描きながらより強いブランドをつくることができます。

ビジュアル・アイデンティティ(VI)は、これからつくり上げていく制作物の基礎となるビジュアルのルールで、全てのビジュアルがこのVIに従ってつくられていきます。ブランドDNAでつくり上げたものを視覚的に伝え、ターゲット・オーディエンスにとって魅力的に表現するのが目的です。

ですので、ターゲットオーディエンスや市場を理解していないアートディレクター、ビジュアル・リテラシーの低いグラフィックデザイナーだと、せっかく設定したターゲットオーディエンスにリーチすることができず商品が売れなかったり、ブランドの目指すところと違ったターゲット・オーディエンスを呼び込んでしまい、ブランドイメージが下がってしまったり、ということになります。

日本でよく見られるのは、価格帯の高いラグジュアリー・ブランドとして富裕層をターゲット・オーディエンスに設定したブランド戦略を構築したにもかかわらず、ラグジュアリー・ブランディングの経験のないアートディレクターを雇ってしまったため、ターゲット層の好むビジュアル・アイデンティティの構築ができず、ターゲットに全くリーチできなかったというものです。

アートディレクターを選ぶ際には、ブランドのターゲット・オーディエンスを理解していること、高いデザイン能力があるかを見極めることが必要です。

STEP.04|ブランド・コラテラルの構築

引用元:PLUS NIDO DESIGN

コラテラルとは販促物などブランドの世界観をつくり上げる全ての制作物のことです。コラテラルは、消費者とブランドが接するタッチポイントにおいて、消費者にブランドの世界観を伝える重要な要素。ここではブランド・コラテラルについて説明していきます。

コラテラルはたくさんありますが、以下のものが代表的です。
ショップカード、名刺、封筒、便箋、カタログ、ウェブサイト、SNS、パッケージ、ショッピングバッグ、広告、CM、ポスター、雑誌広告、内装、外装、館内サイン、看板、街頭サイネージ、ニュースレター、ユニフォーム、メニュー、コースター、マッチ、インフォグラフィックスなど」

大きさや規模に関わらず、ブランドの世界観を発するものがすべてコラテラルです。すべてのコラテラルがガイドラインに忠実に従い、一貫性を持っている必要があります。コラテラルに使用される文書やコピーはトーン・オブ・ボイスに、ビジュアルはビジュアル・アイデンティティに沿っている必要があります。

そして大切なのが、「これはあのブランドね!」と感じてもらえる統一感を保ちながら、ブランドの魅力を存分に伝え、触れる人がファンになってしまうような魅力的なものでなくてはなりません。ブランド・アイデンティティを理解しつつ、存分にクリエイティビティを発揮し、ひとつひとつのコラテラルが触れる人をワクワクさせるようなクオリティに昇華させることが大切です。

STEP.05|インナーブランディング(社内で足並みを揃える)

社員にブランドの理解を浸透させることをインナー・ブランディング(Inner Branding)と呼びます。ブランディングは「らしさ」を引き出し伝わるかたちにすること。

そしてブランディングのゴールは、ファンになってもらうこと。企業のブランディングにおいては、顧客や社会はもちろんのこと、その会社で働く社員は一番大切なターゲット・オーディエンスが会社のビジョンに共感し、やりがいを感じながらハッピーに仕事ができないのであれば、ブランディングは失敗です。

逆にブランディングが成功している場合は、インナー・ブランディングによって浸透したビジョンに共感した社員が、愛社精神と誇りを持って仕事をするので、モチベーションや満足度が向上し、それが行動や顧客へのサービスや対応に表れ、顧客満足度も上がり、良いスパイラルが起こります。

これは、良いブランディングの項目として挙げた「GOVERNANCE: 企業倫理/ガバナンスがある」と繋がる部分。こうした会社には、ビジョンに共感した会社に適した人材が集まり、社員の満足度が高いので離職率も低減します。

働きやすい環境で、やりがいを感じながら、責任を持って参加する、社員全員でつくり上げる会社は、個人の自己実現のために企業が存在する、というスタンスをもっています。これは世界の企業が向かっているあり方です。

また、商品やサービスのブランディングにおいてのインナー・ブランディングも同様で、社員自らがこのブランドを理解し共感しファンになることで、モチベーション高く一貫性のある世界観を実現することができます。

同時に、従業員が高い意識で行動することで顧客満足度も上がり、ブランドイメージやブランド価値の向上に繋がります。

インナーブランディングを成功させることは簡単なことではありませんが、日々真摯に取り組み、成功に導くことができれば、企業にとっても喜ばしい効果が期待できます。

STEP.06|ブランドマネジメント

ブランドは企業の価値を左右する重要な資産です。ブランド価値は無形資産であり、有形資産以上の価値をつくり上げることも可能です。

海外では多様なブランド価値の算出方式があり、ブランド指数によって実際にその価値が数値化されます。2018年度のブランド価値の高い企業は、1位Apple, 2位Google, 3位Amazonとなっています。

日本でも経済産業省が、2007年前後にブランド価値の評価モデルを考案していたようでしたが、適正な評価が難しく実施までには至らなかったようです。日本ではいまも無形資産であるブランド価値があまり評価されていないというのが現状です。

海外ではブランド価値が無形資産として社会で認知されているため、ブランド価値を守るためにブランドを管理することに議論の余地はありません。海外の企業では、クリエイティブとともにブランド・ディレクターやブランド・マネージャーなど、ブランドを統括して管理する人や部署が社内にあり、ブランドが間違った方向に進んでいないかを常にチェックしていくのが一般的です。

規模の小さいブランドでは、外部から専門家を雇い、定期的にブランドがブレないように管理していきます。ブランディングは長期的な経営戦略なため、ブランディングを成功させるには、社内が一丸となって足並みをそろえてぶれずに進んでいくのが最も重要なポイントです。

日本でよく見かけるケースは、ブランディング後の管理ができていないことです。例えば、いわゆる「ブランディング」をしたであろうロゴや内装などのコラテラルが素敵に仕上がっているレストランがあったとしましょう。

しかしながら、従業員の接客が悪かったり、ブランドに沿わないようなものが買い足して使われていたり、現場の利便性を優先して色々なものが客の目につくところに置かれていたり。結局、狭義のデザインである見た目の良いところだけが残って、深いところまでは浸透していない。このようなケースがよく見受けられます。

ブランディングは総合体験であり、ずっと続いていく長期戦略です。きちんと細部にまで神経を使い、世界観を保っていけば素晴らしい効果が期待できます。しかしその一方で、小さな矛盾が不信感を招き、ブランドイメージを落とすことに繋がっていくのです。

ブランディングの事例

ニベア(NIVEA)の商品ブランディング事例

ニベアのブランディング事例から学べるのは「ブランドアイデンティティ」や「ビジュアルアイデンティティ」の重要性です。

ニベアは、ドイツで1911年に発売されたスキンケアクリームのリーディングブランドだ。現在は世界187カ国で発売されており、日本法人であるニベア花王は、ニベアの発売元である「バイヤスドルフ・ホールディング・ジャパン」と花王が合弁で設立した会社です。

スキンケアクリームを中心に、日焼け止め、リップクリーム、デオドラント剤などを発売しています。

ニベアブランドの成功要因は、強い「ブランドアイデンティティ」と「ビジュアルアイデンティティ」そしてそこから生まれる強い「ブランド連想」だといえます。

ニベアのブランドアイデンティティとは「肌がふれあう。ただそれだけで、人は人をあたためることができる。まもることができる。一生の素肌に。」と謳われているように「肌同士が触れ合うような、深い愛情を守り続ける」ことです。

また、ビジュアルアイデンティティ面では、ブランドのシンボルカラーであるミッドナイトブルーを一貫させています。

また、ブランド連想面では、ニベアとは「信頼」や「愛情」あるいは「やさしさ」というブランド連想で一貫しており、時代は変わっても、多くの人々が幼い頃に母親の愛情と共に出会うブランドです。

これらが「母の深い愛情に守られていた」という記憶や経験と相まって、時代を越えたニベアブランドのブランド価値となり感情移入を創っています。

さらにニベアは、ブランドマネジメント花王の元会長をうならせた有名な逸話がある。

花王の元会長が、提携先のバイヤドルフ社の会長にパーティで会ったとき、花王の会長は「あなたは誰のために働いているのですか?」と問い掛けたという。

ニベアの会長は「ニベアというブランドを守り、 育てていくために働いているのだ」という回答をしたといわれるが、その後、同じ質問をニベアの海外部長にもしたところ、全く同じ返事が返ってきて驚いたという。

花王はブランドマーケティングに長けた企業とされるが、その取り組みのきっかけとなったのがニベアだ。

このように「ブランドのために働いている」 という哲学は、ニベアのみならず他の欧米企業のブランドには少なからず存在する。

 

Airレジ(リクルートライフスタイル)の事例

リクルートの業務支援領域での新規事業「Airレジ」は、0円でカンタンに使えるPOSレジアプリ。いま一番選ばれているPOSレジアプリです。

これまでリクルートが得意とする「営業マンによるPush型拡販」ではなく、ブランディングにより認知の質と量を上げて、Pull型でのビジネス的成功を実現するために、野村氏が着任した2016年4月のほぼゼロの状態からブランディングを整備、強化する必要があった。

【ブランディングの目的】
①圧倒的な認知率、特にカテゴリ純粋第一想起率のアップ(サービスリリース当初のブランド認知率は7.9%)
②単にブランド認知率が上がるだけでなく「ブランディングが明確にビジネス貢献すること」の定量的な証明とメカニズムの科学
③ブランド投資に懐疑的だった経営陣やブランド理解の薄いエンジニアなどのメンバーの意識変革の必要性

ブランディングへの投資に懐疑的だった社内をねばり強く説得し、ビジョン、ミッション、バリューを構築してエクスターナル/インターナル両面のブランディングを着実に行い、アカウント数増加というKPIの達成に貢献した。

さらにブランド認知率やブランドイメージを定量的に測定し、アカウント数増加と相関性があることを実証している。

明快なロジックで、ブランディングを実施したのみならずそのビジネスへの貢献を測定した試みは素晴らしく、審査員の多くがこの事例を社会に広めたいとコメントした。

また、ポスレジという機能的価値にフォーカスされそうなプロダクトを「自分らしいお店づくり」にフォーカスすることで、情緒的価値へとつなげた点も評価され、2019年度の準大賞に選ばれている好事例です。

 

まとめ

以上、企業が取り入れるべき「ブランディング」とは?プロセスも合わせて解説してきました。

とはいえ、本当に今ブランディングが必要なのか判断しかねている、またマーケティングと何が違うのか理解できないという方々は、こちらの記事(ブランディングの必要性について)を参考にしてみることをオススメします。

ブランディングの悩みは多岐に渡ります。例えば、

・競合他社との違いを明確に差別化できなくなってきた。
・組織が急拡大し、経営陣のメッセージが社員に届かなくなっている。
・広報や採用がうまくいっていない。
・離職率が低下しない。
・自社の強みや特長が、いまいち社外や消費者に伝わっていないと感じる。
・経営者とのコミュニケーションがとれるクリエイターが社内にいない。
・サービスは売れているのに知られていない。

このような課題を抱えている経営者様、サービス責任者様、採用責任者様を対象に、プラスニド・デザインでは、10社限定「無料でブランド診断〜簡単な提案」をさせて頂いております。ご興味のある方は下記からお問い合わせください。

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